第1部:プロポーザルの「勝率」を劇的に変えるAI活用戦略(全4本)
✓建設コンサルのプロポーザル敗因は「コピペ感」にある。生成AIを「優秀な壁打ち相手」にする基本アプローチ
✓「仕様書の裏の意図」を暴く:生成AIに辛口審査員を演じさせ、プロポーザルの弱点を潰すプロンプト術
✓10分のヒアリングで審査員を唸らせる!AIを使った「エレベーターピッチ・想定Q&A」の事前準備
✓「絵に描いた餅」と言わせない。プロポーザルの技術提案に自社の「AI PoC実績」を自然に溶け込ませるストーリー設計
仕様書を読み込み、実績も技術力も盛り込んだ。それでも、提案書を読み返すと「今回の業務に、なぜこの方法が必要なのか」が伝わっていない。建設コンサルのプロポーザルでは、こうした説明不足を提出前に見つけたいところです。
そこで使いたいのが、生成AIによる模擬レビューです。仕様書と評価基準を渡し、辛口の審査員役として提案の弱点を指摘させます。ただし、厳しい口調で批判させるだけでは改善につながりません。根拠、判断基準、修正の条件まで指定して初めて、実務で使える点検になります。
この記事では、仕様書の要求を読み解き、提案の弱点を具体的な修正につなげる六つのステップを、プロンプト例とともに紹介します。
1.「裏の意図」は、根拠のある仮説として扱う
生成AIは、発注者の非公開の本音や審査委員の考えを知っているわけではありません。「仕様書の裏の意図を暴く」という表現は、公開資料から、明記された要求の背景にある課題や懸念を考えることだと捉えてください。
例えば「関係機関との協議を踏まえた工程管理」が求められているなら、協議の時期や結果が工程に影響する可能性を検討できます。しかし、その記述だけで「過去に協議が失敗した」とは判断できません。背景を一つに決めつけず、複数の解釈を残す姿勢が大切です。
まずは、資料に書かれた事実、自分たちの解釈、確認が必要な事項を分けます。AIには、この区別を崩さずに点検させましょう。
2. 提案の弱点を点検する六つのステップ
STEP1. 仕様書・評価基準・提案骨子を整理する
AIに渡す資料を整理し、同じ前提でレビューできる状態を作ります。業務説明書、特記仕様書、評価基準、公開された質問回答などを用意し、資料名と該当箇所を示します。提案骨子も、課題、方法、採用理由、成果物の順にまとめると照合しやすくなります。
**プロンプト例**
以下の資料から、業務目的、要求事項、制約条件、評価項目を整理してください。各項目に資料名と該当箇所を付け、当社の提案骨子で対応する記述を示してください。資料にない条件は追加せず、読み取れない図表や不足資料は「確認が必要」と明記してください。
【仕様書・業務説明書】
【評価基準・質問回答】
【提案骨子】
回答を受け取ったら、まず引用箇所を原文で確認します。配点表の読み違いや、別紙の見落としがあれば、レビューの前提から修正が必要です。資料の整理を飛ばして「厳しく評価して」と頼むと、今回の条件に関係のない一般論が混ざりやすくなります。
STEP2. 要求事項と懸念の仮説を対応させる
仕様書の要求から、発注者が確認したい点を仮説として整理します。大切なのは、もっともらしい物語を作ることよりも、提案で説明すべき論点を見つけることです。
**プロンプト例**
各要求事項について、背景にある課題や懸念の仮説を挙げてください。「明記された事実」「根拠のある解釈」「情報不足で不明」を分け、解釈には参照箇所と別の解釈も示してください。発注者の内部事情や過去の失敗を推測だけで断定しないでください。最後に、提案前に確認すべき事項を整理してください。
例えば「既存資料を活用する」という要求には、重複調査を避けたい、過去の成果との整合を確保したい、といった解釈が考えられます。どちらを重視するかで、提案に必要な説明は変わります。
そこで、資料の利用可能性や不足時の対応まで考えます。「既存資料を活用します」で終わらせず、「何を確認し、どの条件で追加確認を判断するか」を説明できる状態にするのが、この段階の目的です。
STEP3. 辛口審査員の役割と判断ルールを指定する
辛口審査員役には、口調よりも点検の視点を指定します。AIに資格や審査経験があると見なす必要はありません。模擬レビューとして、説明不足、根拠不足、実現性の不明点を厳しく探してもらいます。
**プロンプト例**
あなたは、提示した資料だけを根拠に技術提案を点検する模擬審査員です。各評価項目について、対応する記述、説明不足、根拠不足、工程・体制との不整合を示してください。指摘には提案書と仕様書の該当箇所を付けてください。人格的な批判や抽象的な酷評は不要です。実際の得点、順位、採否は予測しないでください。
「独自性が弱い」という指摘だけでは、どこを直すか分かりません。「今回の地域条件と調査方法の選択理由が結び付いていない」と示されれば、条件と判断の説明を補えます。
逆に、引用した評価項目と関係のない指摘は、採用を保留します。AIが厳しく言い切ったからといって、その判断が正しいとは限りません。指摘の強さではなく、根拠とのつながりを見てください。
STEP4. 指摘を根拠と修正優先度で整理する
レビュー結果は、そのまま修正指示にせず、優先順位を付けます。仕様書の要求を満たしていない箇所と、表現を整えれば済む箇所を分けると、限られた時間を使いやすくなります。
**プロンプト例**
指摘事項を「対象箇所・指摘内容・根拠・修正優先度・必要な確認」の表にしてください。高は要求未充足や提案の前提を左右する根拠不足、中は方法や採用理由の説明不足、低は読みやすさや重複表現の改善とします。判断材料が足りない場合は優先度を断定せず、確認事項を示してください。改善による加点は予測しないでください。
担当者は、各指摘を「採用」「保留」「不採用」に分け、その理由を残します。例えば、仕様書にない追加調査を求められた場合は、必要性と契約範囲を確認するまで保留します。
修正案をすべて盛り込むと、ページ数、工程、体制の整合が崩れるおそれがあります。重要な要求への対応を先に確かめ、その後に文章表現を整える順番で進めましょう。
STEP5. 修正案を工程・体制・成果物で検証する
修正は、実行できる内容に限定します。AIに具体化を求める際も、未確認の人員、期間、技術、実績を加えないよう条件を付けてください。
**プロンプト例**
採用した指摘について、既定の工程・体制・成果物の範囲で修正案を示してください。「修正前・修正後・実施上の確認事項」を対比してください。未確認の数値、技術的条件、実績、効果は追加しないでください。追加作業が必要と思われる場合は本文に盛り込まず、判断が必要な事項として示してください。
架空の橋梁維持管理業務を例に考えてみましょう。修正前が「点検結果を踏まえ、適切な維持管理計画を策定します」だけなら、判断の手順が見えません。
修正後は「既存の点検結果について、実施時期と記録の整合性を確認します。対策の優先順位を整理する判断基準を発注者と確認し、その基準に沿って計画案を作成します」と書けます。ただし、これらの作業が実際の業務条件に合うことが前提です。
工程表には既定の協議の位置付けを示し、体制には確認担当を、成果物には判断基準と計画案の対応を明記します。基準が未確定なら、確認時期と確認方法を記載します。具体的に見せるために、新しい分析モデルや追加人員を勝手に約束しないことが重要です。
STEP6. 再審査とヒアリング練習で仕上げる
修正後は、同じ資料と判断ルールで再レビューします。文章が長くなっただけで、肝心の説明不足が残っていないかを確認してください。
**プロンプト例**
修正前後の提案を同じ評価基準で比較し、解消した指摘、残った弱点、新たに生じた不整合を整理してください。その後、実現性、判断理由、資料不足時の対応について、ヒアリング想定質問を五つ作ってください。回答は提示済みの事実と提案内容だけを使い、答えられない点は確認事項として示してください。
「追加確認が必要になったら、工程をどう守るか」「その方法を採用しない条件は何か」。こうした質問に答えると、提案書の記述と実際の判断がつながっているかを確かめられます。
ヒアリングの有無や実施方法は案件ごとの資料で確認します。[建設コンサルタント業務等における プロポーザル方式及び総合評価落札方式の 運用ガイドライン](https://www.mlit.go.jp/tec/content/001598728.pdf)なども参考になりますが、実際に適用される業務説明書や評価基準を優先して点検してください。
3.AIの指摘を採用する前に確認したいこと
AIの指摘は、原文と自社の実行条件に照らして採否を判断します。引用、技術基準、数値、出典は原典で確認し、資料の読み違いを見つけたら前提を修正して再点検します。同じ質問への回答が変わった場合も、都合のよい回答だけを選ばないようにしましょう。
情報管理にも注意が必要です。未公表資料、個人情報、契約上の秘密、自社ノウハウを入力する前に、AIサービスの契約条件、社内ルール、発注者との取り決めを確認します。匿名化だけで利用条件を満たせるとは限りません。まずは入力が認められる公開資料から試す方法が現実的です。
最終確認では、提案の記述、工程表、配置技術者、成果物が一致しているかをチームで読み合わせます。AIへの依頼文、参照資料、指摘の採否を残しておけば、修正の理由も共有できます。
レビューを繰り返す際は、修正した版と参照資料の版をそろえます。古い骨子を評価させたままでは、解消済みの問題を再び指摘されることがあります。また、担当者ごとにAIへの指示が異なると、採否の基準も揺れます。チーム内で点検項目を共有し、同じ条件で比較してください。最後は、提案に詳しくない同僚にも読んでもらい、課題と方法のつながりを説明できるか確認すると、伝わりにくい箇所を探す助けになります。
4.まずは重点テーマを一つ、厳しく点検する
最初から提案書全体をAIに任せる必要はありません。重点テーマを一つ選び、要求の整理、模擬審査、修正後の再点検まで試してください。対話の前後で、採用理由と確認事項が明確になったかを見ると、活用の手応えを確かめられます。
辛口審査員役の価値は、根拠のある問いを増やし、説明できない前提を見つけることにあります。今回の業務で何を重視し、なぜその方法を選び、どう実行するのか。最後にその判断を引き受けるのは、提案する技術者自身です。

