人手不足は、日本全国で深刻な問題になっています。実際にどのような状況なのか、統計データを確認しながら現状を把握してみましょう。また、人手不足を補ってくれると期待されるITはどのように導入すれば人手不足に効果的なのか、業務プロセスをどのように改善すればよいのか、導入方法を整理しました。
目次
全国的に人手不足と言われ、外国人労働者(実習生)の受入も活発になっています。では、現状、どのような職種が人手不足で、人手が余っている職種はないのか、関東、宮城県、北海道の雇用統計を確認しながらミスマッチがないのか、現状を分析します。
まず、関東の有効求人数上位5職種は、介護サービスの職業、一般事務員、営業の職、情報処理・通信技術者、商品販売の職業となっています。続いて、北海道では、ホームヘルパー・ケアワーカー、販売店員・訪問販売員、調理人・調理見習、一般事務員、保育士・福祉相談員等となっています。最後に、宮城県では、介護サービスの職業、商品販売の職業、輸送・機械運転の職業、一般事務員、飲食物調理の職業となっています。
関東地域(出典:東京都労働局)
職種 | 有効求人数(人) | 有効求職者数(人) | 有効求人倍率 |
介護サービスの職業 | 31,624 | 6,600 | 4.79 |
一般事務員 | 27,008 | 80,355 | 0.34 |
営業の職 |
26,434 | 14,584 | 1.81 |
情報処理・通信技術者 | 24,115 | 8,789 | 2.74 |
商品販売の職業 | 23,401 | 9,686 | 2.42 |
北海道(出典:北海道労働局)
職種 | 有効求人数(人) | 有効求職者数(人) | 有効求人倍率 |
ホームヘルパー、ケアワーカー | 10,762 | 3,250 | 3.31 |
販売店員、訪問販売員 | 7,232 | 4,172 | 1.73 |
調理人、調理見習 | 6,192 | 2,301 | 2.69 |
一般事務員 | 5,422 | 17,754 | 0.31 |
保育士、福祉相談員等 | 4,906 | 2,098 | 2.34 |
宮城県(出典:宮城県労働局)
職種 | 有効求人数(人) | 有効求職者数 (人) | 有効求人倍率 |
介護サービスの職業 | 4,473 | 1,031 | 4.34 |
商品販売の職業 | 3,500 | 1,805 | 1.94 |
輸送・機械運転の職業 | 3,266 | 1,291 | 2.53 |
一般事務員 | 2,900 | 9,140 | 0.32 |
飲食物調理の職業 | 2,640 | 943 | 2.8 |
関東、北海道、宮城県では、介護関連、販売員、一般事務員、飲食関連が求人数上位であることがわかりました。特に、介護関連、販売員、飲食関連は、有効求人倍率も2倍以上と非常に高い傾向にありました。みなさんが望む人財を雇用することはますます非常に難しくなっている状況にあります。
一方で、一般事務員は求人数が多いものの、有効求人倍率は0.3程度と非常に低くなっています。関東では、19000人、北海道で12000人、宮城県で6200人程度のミスマッチが生まれています。
なぜ、一般事務員の有効求職者数が多いのでしょうか。
残念ながら、それを定量的にまとめられた資料は見つけられませんでした。
しかし、マツオカミキさんの「事務職志望の就活生が知っておくべき「内勤仕事のつらさ」5選https://matsuokamiki.com/archives/1742では、「大変なのが嫌だから。」というのが事務員を志望する就活生の動機のようですので、中途採用の求職でも事務職が楽だという思い込みで志望する人が多いのでしょう。ただ、このコラムを読む限り、実際には楽ではないようです。
①人手不足の問題は、一部のミスマッチや技術的失業状態か?
一般事務員を志望する人が非常に多く有効求人倍率が低いことと他職種の有効求人倍率が高いことから、ミスマッチが起こっていることは明らかです。この問題は、例にした3地域で同じであるので、全国的な問題であると推察できます。この問題は、厚生労働省の労働政策研究会でもほとんどとりあげられていないようです。一般事務員は、営業や経理といった事務作業を代行することによって、社内のワークフローを進めてくれる人員ですので、営業担当者が自身で交通費を精算したり、経理がアウト―シングされると不要になる人員とも言えますので、IT化の進展によって労働市場での需要が少なくなっている職種であることは疑いようがありません。つまり、一般事務員志望の方は、いわゆる技術的失業状態にあり、他の職種に転換しにくい職種になってしまっている可能性が高いです。
②ITの導入によって、企業内失業を招く可能性がある?
同じようなことが企業内でも起こる可能性があります。ITの導入は、情報を共有したり、決済を早めたり、多くの効率化を企業にもたらしてくれます。社長との距離が近い中小企業では、社長の予定を直接聞かなくても、グループウェアで確認できるというのは、中小企業の従業員にとっては非常に効率のいい状態でしょう。今までは、事務員がスケジュールの管理をしていたものが不要になるということは、一つのタスクをなくすことです。この空いたタスクを埋める新しいタスクがなければ、ただ、不要な人員を雇用し続けることになってしまいます。
③経営者のマネジメントスキル・ITスキルはどうか?
経営者のIT スキルは、経営者自身が実務に携わることが少ないことを鑑みると、いわゆるIT企業以外の事業を主としている経営者に高いスキルは必要ありません。しかし、せめてスマホを駆使して情報を収集し、事業に活用する程度のスキルは必要だと思います。そこで、経営者のITスキルの一つの指標としてスマホの所有率をみてみましょう。
JustSystemsが運営しているマーケティング リサーチ キャンプに経営者のスマホ所有率が報告されており、それをみると、67%の所有率でした。これは職業別にみると、もっとも低い所有率でした。
【最新版】2017年のスマホ普及率を男女・地域・年代別に大公開!まさにスマホオンリー時代!マーケティングがこれからどう変わるべきか予想してみた。(出典:JustSystems運営マーケティング リサーチ キャンプ)https://marketing-rc.com/article/20160731.html
つまり、2016年、経営者・役員の33.3%はフューチャーフォン、つまりガラケーを使っており、経営者が自社のIT化を推進しようする気概があるとは思えません。経営者のITスキルは、マネジメントスキルにも影響を及ぼしますので、このような企業は生産性が低い可能性があります。
③労働力を増やせば人手不足を解消できるのか
労働力として人手が増えることで人手が足りなくなるという新しい問題を引き起こします。特に、社内教育が問題になりますが、社内教育を実施できる中小企業は少なく、本来かかるはずの人出をかけていないため、生産性が低いまま、雇用し続けることの繰り返しになっています。実は、短期的な労働力を補充しても、教育が行き届かなければ、十分に生産性を高めることができず、企業の成長を鈍化させてしまうかもしれません。そもそも、自社にどんな魅力があるのか、コアコンピタンスは何か、といった企業の根幹を整理する必要があります。
①人手不足を解消する前に業務プロセスの明確化
生産性が上がらない企業の特徴として業務プロセスが明確になっていない場合が多くあります。簡単なところでは、就業規則にある超過勤務、休暇など手続きが不明、小口現金や建て替え清算の方法が不明、見積書の承認方法が不明、受発注における契約書がないなどです。
実は、これらの業務プロセスを明確化し、明文化するだけでも、非常に透明性が高いマネジメントができるようになります。さらに、これらをワークフローとして定義し、その申請や承認といった業務プロセスにITを導入することで非常に効率化されます。
そして、非常に重要な機能がマーケティング機能です。マーケティングとは、広報やリサーチではなく、販売につなげるためのプロセスとしてのマーケティングです。つまり、リードを集める機能であり、そのための情報発信、コンテンツ作成です。このプロセスが機能することによって、
②人手不足対策
●現状維持のまま
全ての企業が右肩上がりを望んでいるとは限らず、今の規模を保ちつつ、質を改善していこうという経営者も少なくありません。そのような経営方針の企業では、自社の業務プロセスを改善できたら、まずは組織の見直しをしましょう。最適な人員配置ができているか、最適に人員配置できるような組織になっているかの見直しが必要です。そして、ジョブローテーションです。小さな組織であればこそ、全員が全ての職種ができるように仕組みを作ります。一匹狼の敏腕営業マンに頼ってはいけませんし、番頭さんの経理部長も不要です。
●事業拡大を目指す
業務プロセスが改善できたなら、事業拡大の機会が訪れます。IT導入による生産性の向上は下図のようなイメージです。業務の時間が短縮できたら新しい業務としてマーケティング 機能を持たせます。できれば、営業とは違う部署に儲けることをオススメします。それは、マーケティングの成果と営業の成果が大きく異なるからです。マーケティングが可能性を広げるのに対して、営業は実績を作る必要があるからです。良い見込顧客を営業に渡すことがマーケティングの役割ですから、そのような視点で評価すると良いでしょう。マーケティングがうまくいったら、営業部門や生産部門で人手不足になっている可能性があります。営業部門が生産部門のクレーム処理に追われていませんか。生産部門でミスが発生していませんか。このようなことを改善することで、事業の拡大が可能になっていきます。マーケティングは見込顧客の獲得だけではなく、マーケティングの副次的効果として採用がしやすくなります。全ての人に対して自社への関心を高められてこそ、マーケティングの本当の成果です。
●事業縮小もやむなし
業務プロセスの明確化によって、不要な人員が出てしまうかもしれません。その場合には、配置転換が基本ですが、難しければ、お辞めいただかなくてはいけないかもしれません。経営者としては、苦渋の決断になりますので、できれば配置転換で決着しましょう。
ITの導入は間違いなく、人手不足対策になるでしょう。ただし、その手順を間違ってはいけませんし、ITツールを使うだけで生産性が上がるわけではありません。業務プロセスの改善、組織改革、さらには、新しいルール作りも必要になるでしょう。ITの導入には経営者のITスキルも必要です。
このように整理してみると、当たり前のことばかりを書いてしまいましたが、当たり前のことを当たり前にやることがいかに難しいことか。でも、どうせできないと諦めずに、日々、取り組んでいきましょう。
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